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岁月不似春风

戦争の話はお

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戦争の話はお


「チョムレップスー(こんにちわ)」
私は腰を折ってワイ(合掌)をするカンボジア式の挨拶を行いながら一歩近づいた。
大佐が男に声をかけ私のことを日本から来た救援関係者で、住民の生活調査を行っていると説明した。
ポト兵は太い首を僅かに動かし頷いた。
小屋の軒先に弾帯がいくつかぶら下がっていた。ロケットランチャーも二台戸口に立てかけられおり、縁側にはロシア製の自動小銃AK四七が無造作に置かれてあった。
「休暇中ですか」
私が英語で話すと大佐がクメール語で通訳した。
男は小さく頷き僅かに私の方に視線を移した。その目つきには警戒と戸惑いが入り混じった複雑な色が浮かんでいた。正体の知れない日本人が意図のはっきり判らぬ質問をするのだ。考え込んでしまうのも不思議ではない。
雰囲気を和ませるために、胸ポケットからくしゃくしゃになった煙草の包みを取り出し、折れ曲がった一本を自分で咥え、火を点けた。
吸うか、と包みを突きだすと、彼は一瞬ためらいの色を浮かべたが、用心深そうな手つきで一本抜き取ったので、火を点けてやった。煙草に添えた手はヤツデの葉のようにごつく、私などは片手で簡単に扼殺できそうな手だった。
「こんどいつ隊にもどるんですか」
「わからない」
彼はゆっくりと煙を吐き出しながら遠くに視線を移し、ぎこちない笑みを浮かべた。歳はいくつなのだろう。私と同年代か二つか三つ上のように見える。日本で生まれていれば何をやっているだろう。体格からすればラグビーの選手でもやりそうだ。
「長い内戦ですね」
私は独り言のように言った。
兵は灰が伸びた煙草の先を見詰めている。
「戦争、止めたらどうですか」
ちょっと待てよ、お前、と大佐は怒気を含んだ声で言った。
「いいか、戦争の話はお前には関係ないだろう。そっち方の話をこんなところで持ちだすな」
「大佐、すまない。訊いてみたいんだ。何て答えるか。頼むから訊いてくれ」
確かに私は一介の救援関係者だ。成り行き上カンボジア国内で緊急援助を行っている。戦争が行われていなければ私だってこんなことはやっていない。もとはお前たちが、いやお前たちの幹部がまともな政治を行っていればこんなことになっていなかったのではないか。
クメール語で訳された私の問いを聞くとポト兵は不敵な色に満ちた視線を私にぶつけ、
「あなたにはどうでもいいことだ」
と煙草を地面に捨て、履いていたサンダルで踏み消した。私と大佐に一瞥をくれ、
「もういいか」と背を向けた。
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